禁じ手だった「備蓄米放出」で価格が下がる理由とは?「減反廃止と直接支払い」で万事OKとなるほど甘くはない農業の現実…荒幡克己教授に聞く

――備蓄米放出を受けて価格はどう動きますか。
世間では、備蓄米放出を末端価格5キロ2000円前後(税抜き)と安く、スピード感をもって行ったことが注目されているが、コメ業界に対してインパクトが大きいのはむしろ、30万トンを一気に放出したことと、その際、買い戻し条件を外したことだ。
というのも絶対的なコメの量が足りていなかった。そして不足「量」以上にコメ業界では不足「感」が強く、先々まで需給がタイトな状態が続くと捉えられていた。そのため足元で備蓄米が放出されても、秋に収穫されたコメが買い戻される可能性があるのなら、需給のタイト感は払拭されない。
原則1年以内としていた買い戻し条件が外れたことで、今年の秋に収穫されるコメも含めた需給が緩和しそうだと見方が変わってきた。すると不足を警戒して確保していたコメを売り出す動きが出てきて、価格が下がるメカニズムが働き出す。
さらに「必要とあらば無制限に追加放出」との小泉農相の発言や、目の前で5キロ2000円という破格の価格が提示されたことによるアナウンス効果も大きい。
これらが相まって、先行きの米不足感はいっそう改善に向かっている。
「抱えこみ」は価格高騰の原因ではない
――農水省は「コメは足りている」と繰り返していましたが、コメは不足していたのですか。

今回の価格高騰を招いたコメの需給については、単年度ではなく2023年産、2024年産を合わせて捉えなければならない。
気候の影響という天災により、2年分あわせて32万トン不足したと試算している。
政府は2023年産米で、インバウンド需要増(3万トン)、当時は小麦製品に対して割安感があったコメへの需要シフト(7万トン)を合わせて10万トンの需要増が生じたと公表資料で示している。
そこに政府の需給計画で減反を強めて意識的に10数万トンを減産するという需給の締めすぎを行った。これらを併せて20数万トンに達する不足量となる。
天災の32万トンと合わせると、55~60万トン程度(国内の年間供給量の1割程度)は不足していた可能性がある。
――農水省は投機的なコメの抱え込みがあると非難していました。
そうした動きがまったくないわけではない。確かに産地の調査をした際には、廃品回収の車がコメを買い集めていた、というような噂も聞いた。
しかし、こうした投機的な在庫保持は、量的に見るならばそれほど多くはないだろう。また、それは米価高騰の結果であり、原因ではない。
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